著者の性別で本を並べて得する読者って存在するの?

不思議な分類

普段はハードカバーの文芸書とか買わないので、書店でもそういうエリアには行くことがなく、これまで気がつかなかったのだけど、「日本文学」とか「文芸書」とか言われる分野では、著者の性別によって陳列を分けておこなっている書店があります。
例えば紀伊國屋は(少なくとも新宿本店では)男性作家、女性作家による分類がおこなわれており、他にも幾つかの書店で「日本の純文学に近いところの小説のハードカバー(紀伊國屋はミステリーやエンターテイメントは男女で分けてない)」について、著者の性別で棚を分けているところがあります。
最初は店舗の大きなところでは分類を細かくするような傾向があるのか、と思ったのだけど、ジュンク堂(新宿店)のような大規模店舗でも男女別の棚分けをおこっていないところもあれば、小規模店舗でも分けてあるところは分けてある(私が見た限りでは小説の棚が男女合わせて200冊程度のところでも分けていた例がある)と。
新書、文庫、コミック、各種専門書などなど、他の分野や装丁では、著者の性別による分類は見られないです。(文庫は出版社と著者名のアイウエオ順、コミックはターゲット層、出版社、著者名のアイウエオ順で分けているケースが多いですね)
普段見慣れないものなので、かなり奇異な印象を持ちました。

なんか役に立つの?

このような分類が存在するのは何らかの理由があるはずです。いろいろと調べたり想像したりしてみました。

著者の性別があれば本の検索で便利

小規模書店では意味がないですし、性別がわかりにくい名前*1とかあるので、とても利便性を向上させているとは思えません。実際のところ、このような性別による分類はわかりにくいとして改善を求める声*2もあるようです。
店頭で男女別の分類をしている書店でも、サイトの書籍検索ではそんな入力項目は無いので、利便性の面から説明するのは難しそうです。

著者の性別が何らかの作品傾向を示すので読者の選択に役に立つ

あるような気もするし、そうでないような気もするし。ただ、以下のような分類を見ると、はたしてメインターゲットの指向性を刺激しているのかになっているのか疑問です。(あくまでメインターゲットです)

男性作家
島田雅彦著の「徒然王子」(レキジョ必読!とかいう帯がかけてある)
女性作家
塩野七生の一連の著作
異性(同性)の書いたものは読む気がしない読者が多いので分けとく

例えば、男は軟弱な女の書いた奴なんか読めるか、女は野蛮な男の文章なんて、とか。。。さすがに無理があるかなあ。本では無く著者そのもの(というよりその属性)へのこだわり?を持っている人がいるとしても極少数でしょうから、これほど多くの書店で採用している理由にはならないような気がします。ただ、かつてはコミックでも少年誌に女性作家が書くことに対する読者の違和感とかあったらしい(だから男性のようなペンネームを使ったりとか)ので、多少はそういうのもあったのかもしれません。
逆に異性(同性)のものをこそ読みたいという人もいるかもしれませんね。これも棚分けするほどの需要は無いと思いますけど。

歴史的な経緯

男性作家と女性作家によると、時代によって分類は変わってきており男女別の分類は減っているということが書かれています。
さらに、文芸書の棚では以下のような事が書かれています。

棚を男性作家と女性作家に分けていたのは、女流文学などと女性作家が少数派だった時代の名残だったのかも知れません。今のように男女の区別なく作家がいる時代に、わざわざ男女を分ける必要はないかも知れません。

文芸書の棚

なるほど、かつては少数派だった「女性作家」を分けることで目立たせる効果が(かつては)あったということでしょうか。そして、現在もこの分類が残っているのは単なる名残だと。これが正解なのでしょうか。

現時点の結論とちょっとした想像

そのようなわけで、そもそもの理由は「女性作家が少数派だった時代があり」「そのような性別を明示する事が商売上有利」であった、そして歴史的な経緯で残っている、というのが現時点での結論です。

あとは、色々と書店の棚を見てみての想像ですけど、昔は著者の性別と狙うターゲット層がイコールだった時代があったのかなあ、と。今でもそういう傾向は残っていると思うんですよ。書名とかが中年男性向けだなあとか、若い女性に向けた感じだなあ、とか。
でも文学で一括りできなくなる中で、嗜好性が明確なモノは、例えばミステリーとか性別に関係なくジャンルとして独立していき、行き場のないモノが性別を区別したまま残っているんじゃないかと。だから、現在、部外者から見ると良くわからない。
それに対して、例えば、新しいメディアとしてのマンガは比較的初期から内容がターゲット層毎に分類されていって、雑誌もそうなり、そこから発刊される単行本も、それにあわせて分類、定着したと。そこでは、ターゲットに合わせたコンテンツを提供するのが大事であり、著者の性別は後回し(前述のように多少はあったようですが)であったと。
まあ、このあたりの歴史は詳しくないので想像ですけどね。

どちらにしろ、分類の手間などの点から、単純なあいうえお順に切り替えたところもあるようですし、この分類は私の子供の世代には消えていっているんじゃないでしょうかね。多分。

おまけ

調べてる途中で見つけた諸々。

*1:有川浩伊吹有喜朝井リョウ橋本紡北村薫高村薫栗本薫など

*2:日記No.15 2010/6/16 知立店 Iでは、そのような声を紹介して、上述の著者名を出しながら書店員も悩んでいる様子が書かれています