納期と満足度とサムスン

個人タクシーの運転手さんと話したときの事。

運転手さん曰く、「うちの商売道具はこの自動車なんだけど、ちょっと故障したりすると修理が大変なんだ。どこも部品の在庫を置かなくなっているから、急な故障、例えばヘッドライトの交換くらいでも直ぐには修理できない。とにかく部品を取り寄せるので、その入荷待ち。都内の大きめのディーラーでもそんな感じなのさ。効率化だかなんだか知らないけど、こっちは仕事で一日休んでも大変なのに、まったくわかってない。」との事。

物流を最適化して在庫を置かずに効率化する。理屈としては正しいんだろうけど、生産現場だけではなくサービス部門でもそういう事になっているとは知らなかった。いくら最適化しているとか言ったって一日はかかってしまうし、個人タクシーの場合、多くは深夜を仕事帯にしているので、夕方出勤前の点検で故障が見つかると、下手したらディーラーが閉まってしまうし、そうでなくとも、その日のうちに部品が手に入って仕事が出来る事はまず無い。「昔はこんな事無かったんだけどねえ」とため息。

この話、どっかで逆の事を聞いたような、と思って探したらありました。元サムスン電子常務・吉川良三氏「サムスン電子の躍進に学ぶ、グローバル市場を見据えたものづくり」では、真逆の話が書かれています。

納期というのはお客さんを待たせるということでしょ? 待たせたら絶対にだめ。もし訳すとすれば、顧客が要求するときに持っていくという意味での“タイミング”でしょうか。在庫が悪だというのは企業側の論理なんです。顧客視点で考えれば在庫は常に持つべきものです。

ものづくりのガラパゴス化の一因はQCDにある

ああ、そのものズバリです。日本でも以前はこう考えていたのではないでしょうか。

サムソンのD(納期)はアフターサービスについても徹底して顧客満足を大切にしています。たとえば冷蔵庫が故障したとするなら、そこで1日でも壊れたままなら本当はだめですよ。食品だって腐ってしまいますから。洗濯機だって、日本では故障するとコインランドリーに行けと言われてしまう。そういうことじゃないですよね。サムスンは1時間で直します。

ものづくりのガラパゴス化の一因はQCDにある

日本製品の品質は、まだまだ高くて簡単には故障しないので、トータルとして見たときには故障で止まっている時間というのは、サムスンの製品よりも短いのだとは思います。でも、実際のところ、ほとんど故障はしないけど一旦故障したら修理に1日かかるモノと、たまに故障するけど修理は1時間でやってくれるモノを比較すると、必需品では後者を選んだ方が安心と思ってしまうのではないでしょうか。

携帯電話では、だいぶ前から性能面で日本製を追い抜いていたサムスンだけど、品質面でもこのようなモノ作りの哲学を持ってやっていたとは知らなかったですね。勉強不足でした。これじゃあ日本のメーカーが新興国あたりで圧倒的に負けるはずですわ。この考えでブレずにやっていく限り、そう簡単に凋落したりはしないんだろうなあ。