金星樹[佐藤史生]
第1弾の時は半信半疑でしたが、無事、第2弾が発売されました。どこまでいくのか不安と期待がありますが、今はただ楽しみたいです。
奇想天外社版との比較
新潮社版は持ってないので、奇想天外コミックスと比較してみます。
外観は復刊ドットコムの方が、やや落ち着いた感じ。奇想天外社版ではトリミングされていたイラスト全体が見られるのは嬉しいところ。
構成の方も新潮社版をベースにして、奇想天外社版にあった萩尾望都氏の解説、未発表のカラーイラスト、「花咲く星々のむれ」2色(!)カラーページ収録という正に完全版になっているので、ファンの人ならば買い直すのもありだと思います。(奇想天外社版にあった伊東愛子さんによる著者近影は無いんですけどね、さすがに)
他には、幾つかのセリフが変更されたりもしているようです。例えば「花咲く星々のむれ」の中で、宋先生がアデライルの過去について説明する場面があります。奇想天外社版では「そこからひきだされたショックから立ちなおるのにアディルは八年かかった/自閉症/失語症/退行・・・」なのですが、今回は「そこからひきだされたショックから立ちなおるのにアディルは八年かかった/言葉を忘れ自らの内に閉じこもった」となっています。(新潮社版ではすでに変更されていたのでしょうかね?)
奥付には「本書は原稿を元に、再編集しました。原稿の内容をそのまま収録しているため、奇想天外社版、新潮社版と一部内容が異なる部分があります。」とあるので、経緯はどうあれこれが最終形ということになるのでしょう。
金星樹
あらためて読むと、やはり表題作が一番完成度が高いなあと。
この作品は「美亜へ贈る真珠、梶尾真治(1971)」との類似性を言われたりしますけど、ストーリーは全く違います。年代的にみて佐藤先生が読んでいるのは間違いないところだと思いますが、特に言及していません(と思う)。あとがきには「若かりし私が感涙にむせんだ、古き良きハッピーエンドSF感というものを描きたかった」とあるので、時間に引き離された恋人どうしを書くにしても、むしろ、こうだろうという思いはあったのかもしれません。
そしてこの作品、奇想天外社版との違いが最も大きい作品でもあります。月刊フラワーズのインタビューアーカイブには、「20世紀名作招待席」として『金星樹』が掲載された際のインタビュー(2001.7)が載っていて、その中には以下のやりとりがあります。
Q3.今回のPF版で手を加えた所はありますか。
加筆はほとんどしていません。トーンなど効果を加えました。
小学館コミック -フラワーズ-
今回は、PFに掲載する際に修正された原稿が採用されていると思われます。それが良くわかるカットを一つ。最初の方が奇想天外社版です。
多くのページに修正が入っており、比べてみると奇想天外社版は随分と白い(笑)ものに見えます。まあ、こんな違いを見るのも楽しみだったりするわけですけどね。
他にも、トリミング(?)の違いがあります。これは元原稿の違いでは無いと思いますので、編集の違いという事になるのでしょうか? それが、良くわかるのは表紙です。これも最初の方が奇想天外社版です。
比べてみるとわかりますが、今回は、奇想天外社版ではトリミングされていた側面までをちゃんと見る事ができるようになっています。ただ、常に今回の方が全体を見られるようになっているかというと、そうでもなくて、奇想天外社版の方が(ほんの僅かですが)側面がトリミングされずに残っていたりするページもあります。こういうのは、何かポリシーがあるんでしょうかね? ファンとしては悩ましいです。