「落合秀也. スマートグリッド対応IEEE1888プロトコル教科書. インプレスジャパン. 2012」を読んで

IEEE1888が話題になり調べる事になったのですが、「1888-2011 - IEEE Standard for Ubiquitous Green Community Control Network Protocol」経由で仕様書を購入して読み込む程でもなかったりして、どうしようかと思ったらちょうど良いタイミングで本書が出版されていたようなので読んでみました。

本の概要

「まえがき」には以下のように書かれています。

東大グリーンICTプロジェクト(GUTP:Green University of Tokyo Project)が研究開発において重要な役割を果たし、2011年2月にIEEEによって国際標準技術として認められたスマートグリッド向けの新プロトコルIEEE 1888-2011(UGCCnet)」(略称:IEEE 1888)の全体像とその活用事例、そして開発に必要な技術や方法論を解説したものです。

この、「開発に必要な技術や方法論を解説」というところがポイントになっています。実際には元々公開されている情報も多い*1のですが、これ一冊で概要から実際の導入まで一通りの情報をまとめているのはありがたい事です。

本書の構成は以下のようになっています。

第1章 Q&Aで学ぶIEEE1888の基礎知第識(19Page)
Q&A形式でIEEE 1888がどのような技術なのか等の概要が書かれています。FAQを最初に持ってきたイメージです。
第2章 本格的なスマートグリッド/グリーンICT時代を支えるIEEE1888技術(25Page)
これまでの計測・制御システムの歴史を振り返りながら、なぜIEEE1888かについて開設されています。一般的な技術書だと、これが第1章になりますね。
第3章 IEEE1888の通信規格:アーキテクチャ編(21Page)
IEEE1888システムが、BEMSで必要な要素をどのようにモデリングしているか、各モデル要素がどのように連携(通信)するか、について解説されています。本書の最大のポイントはここでしょう。正式な仕様書には当然書いてあるのでしょうが、公開されている情報だけ見てると今一つ解りにくかった「実デバイス<->ポイント<->コンポーネント」の関係がわかってすっきりです。
第4章 IEEE1888の通信規格:データフォーマット編(26Page)
コンポーネントレジストリ間での通信フォーマットが要素ごとに解説されています。具体的な例が示されますが、名前空間を含めたXMLの知識が無いと読むのはきついかもしれません。
第5章 IEEE1888システムの設計および構築の基本(16Page)
具体的なシステム構築を行う際の基本的な流れや注意点が解説されています。ここも参考にはなりますが、基本的な部分だけなので過大な期待は禁物です。
第6章 IEEE1888ソフトウェア開発キット(SDK)を使った開発(57Page)
公開されている IEEE 1888ソフトウェア開発キット(SDK)の解説です。内容的には SDKのドキュメント(セットアップマニュアル、スタートアップマニュアル、プログラミングスタートアップマニュアル)とほとんど同じで、かつ、説明しているSDKのバージョンは最新版と比較すると少し古いので、その辺りは適宜読み替えが必要です。また、当たり前ですがソースコードを読める人でないと、どうにもなりません。紹介されているコードは C#, Java, PHP です。
第7章 IEEE1888組込み通信ボードによる高速プロトタイピング(21Page)
IEEE 1888の組込み通信ボードを紹介し、これを用いたプロトタイプシステムの開発実例が解説されていますが、ここはちゃんと読んでません。
第8章 IEEE1888参照コードの読み進め方(25Page)
前述のSDK配布ページとと同じ場所から入手できる、IEEE 1888の参照実装(ほぼJava)の解説です。BSDライセンスのようなので、これをベースに開発もありですね。
第9章 IEEE1888のセキュリティを強化するために(7Page)
IEEE 1888.3として標準化作業が進められている、セキュリティ対応の概要が解説されています。ここは最も興味があったのですが、まだまだですね。直ぐにでも商用として展開したい場合は、このあたりをどうするかが考えどころですかね。
付録 IEEE 1888(FIAP) ソースコード例(62Page)
第7章で取り上げたIEEE 1888通信ボードの実際のプログラム例(ソースコード)が掲載されています。ですが、これは必要だったんですかねえ? ちゃんと見てませんが、上述の配布ページから同じものが入手できそうな気配ですし、今時、延々と紙でソースコードを読みたい人がどれくらいいるのか疑問です。値段は今のままでも構わないので、削ってもらった方がページ数が減って持ちやすくなるので歓迎です。

以上、否定的なことも書きましたが、なんだかんだ言っても、IEEE1888の仕様書を購入して読み込むよりはずっととっつきやすい(はず)です。少なくともプロトタイプ作成くらいまでは、この一冊で何とかなりそうに思います。

著者について

著者は実際にIEEE1888(FIAP) - 東大グリーンICTプロジェクトでも活躍されていたようで、現在は東京大学助教をされているようです。監修にはGUTPの代表である江崎浩さんですから、まさに当事者が書いていると言ってよいかと思います。

どんな人向けなのか

IEEE1888について知りたいという人であれば、とにかく読めばよいかと。
概要から実装の話までが一冊にまとまっているので、読む人の目的によって読む箇所は違ってくると思います。企画・営業系でしたら前半だけでも良いし、開発者であればむしろ後半でしょうし。
ただ、規格が「IEC」ではなくて「IEEE」なんですよね。今はフィールドの制御ネットワークもIPをベースとしたオープン化に進んでますが、こっちは完全にインターネット系の技術を基盤とした話になってます。技術者でも、「通信のレイヤーモデル」「HTTP」「XML」と聞いて、大体どんなものかを知っていないで読むのはつらいでしょう。

電気の話はあまり出てこない*2ので、インターネット系の技術に関わっている人がBEMSにおける制御ネットワーク(IEEE1888にかぎらず)の知識や開発に必要な要素を知りたい場合に、最も役立つような気がします。
逆に、電気系の設備をやってて、これからはオープンなネットワークでつながって制御される、とか言われた時にネットワーク側がどうなるかを知りたい際にも役立つとは思うのですが、前述のように「予習」はいると思います。

得られるメリット

教科書と言っていますが、実用書の側面も持っています。
これまで書いたように、以下のような疑問が解けるかもしれません。

  1. IEEE1888はこれまでの制御ネットワークとどう違うの?
  2. IEEE1888ではどんな範囲をサポートしているの?
  3. IEEE1888では今後どのような事を決めていくの?
  4. IEEE1888に準拠したシステムでは制御機器側はどんな対応が必要なの?
  5. IEEE1888に準拠したシステムを作って監視に役立てたいけど、どんなことが必要なの?

キーワード

色々あるのですが、スマートグリッドとか言ったらなんでもありで良くわからなくなってしまいます。挙げるとしたら「BEMS」ですかね。(他にもあるけど、ちょっと絞りきれない)
興味はあるし公開されている情報は見たけどピンとこない、という方は、それほど量のある本でもないので、まずは手に取ってみるのが良いかと思います。


*1:もちろん、再編集だって手間はかかりますし執筆期間短縮のためにも正解です。

*2:もちろん全く知らないわけにはいきませんし、業務レベルでは必要でしょうが、この本を読む際にはたいした知識は必要ないです。